医療現場での火災について思うこと

先月、福岡で整形外科診療所の火災があり、入院患者さんなど高齢者を含めて多くの方が犠牲になりました。当院は入院施設を持っていませんが、同業者として他人事のようには思えません。春に火災報知器などの点検と同時に消火器の使用についての実地訓練も行いましたが、入院施設ではそれ以外にも防火扉の開閉点検や避難誘導炉の確認などもあります。しかし一番重要なことは避難者が非常時に自力で動ける状態かどうかを確認しておくことだと再認識しました。以前、北海道の老人施設で同様の火災で多くの犠牲者が出て消防法が改正されてスプリンクラーなどの設備が義務付けられたと聞いています。しかし病院などを除き19床以下の有床診療所はその適応外だそうです。これにはいろいろな理由があるのですが、それはさておきこの事故を教訓に避難対象者が自力で動けない高齢者が多い場合、今回のように少数の入院患者さんを受け入れる有床診療所にも厳しい規制が今後導入される可能性があります。人命尊重の立場からは当然のことだと思います。

一方、今の医療の現状はどうかといいますと、日本中で有床診療所が減っています。なぜ減るのか皆さんに少しだけ身内事情を説明したいと思います。まずは人手不足、つまり高齢者が増え夜勤をする看護師や介護者が不足しています。大病院では治療を優先して、高齢要介護者は自宅か施設で受け入れをするように国は移行させようとしています。その中間である今回のような有床診療所である受け入れ施設は減らす方向で予算が組まれています。そして都会の一泊のビジネスホテルの値段よりも安い診療報酬で有床診療所はまかなわなければなりません。つまり人手不足と収入減のダブルパンチです。そのような状況下でも地域医療を守るために正義の御旗を掲げてがんばってこられた先生だったと報道されていました。そのためには良くはないけど経費削減のため老朽化して使用期限がとうに過ぎた医療機機器を使用し続けざるを得ない一面もあるのです。だからといって漏電していいとは決して言うつもりはありませんし、防火扉の不具合の放置を見過ごすことも絶対いけません。当然のことです。今ある現状を知ってほしいのです。

現在の超高齢化社会での社会保障費の増大、風邪をひいても大病院へという風潮、医療の高度化による医療費の高沸、何でもかんでも延命しないとモンスターに訴えられるという現状があります。そして何よりも国の医療費の抑制が今回の悲惨な事故の背後にあるということを知ってほしいのです。最近一部の医療機関が介護サービス報酬でグレーなことをして新聞をにぎわしていましたが、どこの業界でも悪いことや法律すれすれのことはよくあります。病院の勤務医はコンビニ受診で疲弊してドロップアウトして開業する。しかし開業すると今度は診療報酬の抑制で自分の理想とする医療ができない。結局は医療者ではなく経営者としてギリギリの選択をしていくことになる。するとそのほころびが弱者に跳ね返るという縮図でもあるのです。だからといって今回のことを肯定しているのでは決してありません。結果の前には多くの原因が存在するということを知ってほしいのです。

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