風邪が治ると風邪を治すは全く違う

「風邪をひいたから薬ください」とか「風邪が治る薬をください」とよく言われます。日本語の使い方としては間違っていません。しかしよくよく紐解いてみると、医師は「風邪の症状を緩和する薬がほしいのですね」と言いながら処方箋を書いて、患者さんは「この薬を飲めば風邪が治る!」と思っているわけです。結果的には通常は4-5日で自然治癒することが多いため大きな食い違いは起こりません。しかし上げ足をとれば、風邪を治す薬なんてこの世に存在しないという事実を医師は誰でも知っていますが、それを今風に懇切丁寧に説明すれば「白血球などの免疫抵抗がウィルスを駆逐するためにウィルス性の風邪は自然治癒するのであって、咳止めや熱さましなどはその場の辛い症状を緩和する目的にすぎないのであって、そのような抵抗力を増進する薬はないのです」と説明しなければなりませんが、なかなか忙しい医師は説明不足になり「風邪薬を処方しておきましょう」という返答になってしまいます。同様に扁桃腺が腫れたとよく言いますが、扁桃腺はのどの奥に左右対称にあります。ですから厳密に言えばどちらか一方に痛みがあり左右対称に痛いわけではないのです。左右両方が痛い場合はむしろ「のど全体が痛い」と言った方がわかりやすいかもしれません。このように扁桃腺などの炎症で高熱が出る場合は細菌感染(俗にいうバイ菌感染であってウィルス感染ではない)が多く抗菌剤または抗生物質が効きます。これは細菌を殺す薬のため根治療法といっていいでしょう。先ほどの風邪薬は症状を緩和させることが目的ですから対症療法と医師は呼んでいます。この根治療法と対症療法は治療する点では同じなのですが、全く意味合いが異なります。ですからただの風邪なのに患者さんが「抗生物質をください」とよく言われますが、医師は「はい、それでは抗生剤を処方しましょうね」とは言わないのです。患者さんの症状や全身状態を診て確率論的にウィルス性の可能性が高ければ対症療法の風邪薬を処方して、細菌の可能性が高ければ抗菌剤を処方するのです。唯一インフルエンザウィルスの場合はウィルスを殺すのではなく増殖させずに沈静化させるタミフルの効果は証明されていますので、毎年冬に流行すれば処方します。また帯状疱疹ウィルスに効果のある薬もありますが、ウィルスに効果のある薬はまだまだ限定的です。

その他によく勘違いされやすい会話で「風邪をひいたから点滴をしてください」とか「風邪をひいたから注射をしてください」という依頼があります。これも対症療法にしかすぎず、「しっかりと食べて水分をとってゆっくりと寝たら治ります。時間が唯一の薬です」といつも私はそのように説明をして点滴はほとんどしません。しかしときに理解が困難な患者さんもいらっしゃいます。その点で私の見解と患者さんの見解が食い違う場合は「風邪症状は肺炎など悪化しない限りは、時間がたてばほとんど自然治癒しますので、心配いりませんので安静が一番!」と再度説明して終わりにします。その説明に納得していただいた患者さんは次に風邪をひかれたときも当院に来られます。

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