正しい医療と知識を伝えていくには

最近、高齢者の患者さんがよく「昔より身長が縮んだ」と言われます。昭和の時代にも同様の事はあったはずですが、人生100年を迎えようとする平成の時代に高齢者が増えたことで以前は小さかった声が大きくなっただけのことです。声が大きくなれば医療人もその声に真摯に向き合わなければなりません。以前なら「目が薄くなったので気のせいでは?」などとはぐらかすこともできたのですが、現在ではいい加減なことも言えません。昔なら骨粗鬆症という医学用語もそんなに使用されませんでしたが、現在は健診でもテレビでも頻繁に登場します。ですから少しでも検査値が高齢者の平均値から外れてしまうと骨粗鬆という病名がついてしまいます。すると骨粗鬆症の薬を処方しなければなりません。薬を処方することは医療としてまちがっているとは思いません。しかし高齢で人生の終末の人が骨粗鬆なんて当たり前なのです。ですから治療しなければいけない骨粗鬆症としなくてよい骨粗鬆症があると個人的には思っています。全ての骨粗鬆症に薬が必要とは限りません。ではどういう場合に必要なのか?第一に高齢者でも元気で社会生活を全うできる人は必要でまた過去に脊椎の圧迫骨折をしている方は今後の予防として必要です。逆に老衰や癌の末期などには不要でしょう。優先順位としてまだこれから骨粗鬆症により生活が制限され更なる医療が必要になる場合には予防的に薬が必要なのです。予防よりも現在進行形の治療が優先される場合は優先順位の低い治療は不要な事も多いのですが、その線引きは非常に難しく一医療人としてはなかなかできません。ですからどうしても最終的には本人の意思が重要になります。

次に循環器内科的治療で急性心筋梗塞の際に心臓血管カテーテルという緊急手術があり1980年代に始まりましたが、当初は80歳を過ぎたら施行しませんでした。それは当時の平均余命や手術による合併症などを考慮してのことです。しかし医療の進歩と元気な高齢者が増えて人生100年を迎えるに至った現在では、元気で日常生活に支障をきたしていなければ100歳でも本人や家族の希望があれば治療として行うこともあります。医療人としては目の前に死にかけた患者さんがいれば助けます。当たり前のことです。別に医療人は厚生労働大臣でも財務大臣でもないので医療にかかるお金のことは関係なのです。一方で医療費は今後も高齢化社会が一段落する30年先までは上がり続けます。若い人に振り分けるお金が減れば更に医療に充てるお金が減って悪循環になります。私が総理大臣になってもこの問題を解決できませんが、今自分にできる事といえば正しい医療をすることは当然の事ですが、それ以上に高齢者、そして私たち世代の高齢者予備軍に正しい知識を教えることです。例えば煙草は人間の嗜好品として歴史があり早々に禁止することは不可能ですが、もし煙草というものが現在発明された物ならばその発癌作用で製造禁止になるのは明らかです。そのような本当に大切な事や真実を医療人として一般の方々に理解していただけるようにこれからも日々努力していきたいと思っています。

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